【ビジネスモデルの実態】コワーキングスペースに関わり5年間で1万人の会員を集め、運営して見えたビジネスモデル
こんにちは!CoWorkers運営事務局の中邨です!!本日の記事はタイトルがちょっと長いですが、
「コワーキングスペースに関わり5年間で1万人の会員を集め、運営して見えたビジネスモデルの実態」です。
2016年頃から本格的にこの業界に関わり、自ら複数のコワーキングスペース・シェアオフィスを運営することや、店舗のサポートや仕組みづくり、店舗開発のための工事や内装デザイン、顧客の集客やイベントの企画、開催、補助金の活用や地方公共団体との連携など本当に幅広い分野において関わらせていただきました。
そしてこの数年間、様々な要因から働き方が大幅に見直され、コワーキングスペース・シェアオフィスというビジネスモデルについての世間の関心や影響力というものも大きく変貌を遂げました。
しかし、まだまだ日本においては歴史が浅いビジネスであるということは間違いありません。
事業者からしても、情報を集めようと思ってもなかなか得られるものというのは限られているのではないでしょうか。そこで、今回はこれからコワーキングスペースを運営されたいと考えられている事業者さんに向けて、役立つ情報を集約してお伝えしていきたいと思います。
コワーキングスペースの実際の事業収支
「コワーキングスペースって儲かるの?」という質問、よく聞きます。
とりあえず、新しく店舗を作ろうと考えられている方はまず数字で見たいですよね。ということで、実際に運営していた店舗の収支を公開いたします。
正直、当時は右も左も分からないままで運営していた店舗もありましたので、かなり無駄も多かっただろうな、と思う部分も多いです。同じ店舗を今持っているノウハウやシステムなどを駆使すれば利益率は倍増させられる自信もありますが、すでに手放してしまった店舗や入居していた施設自体が閉鎖してしまったケースなど状況は様々です。
しかし、当時の経験が少なかった経営の数字ですので、逆にそれもリアルな数字として受け取って貰えればいいかなと思いますので是非参考にしてください。
※現状も運営を続けている店舗も多数あるため店舗名など具体的な情報は非公開とさせていただきます。
コワーキングスペースA店
- エリア:愛知県
- 立地 :駅徒歩5分
- 面積 :約30坪
月額会員費 | 1,386,600円 |
その他売上高 | 138,000円 |
合計売上高 | 1,524,600円 |
家賃・水道光熱費 | 867,000円 |
人件費 | 381,000円 |
その他経費 | 124,000円 |
合計経費 | 1,372,000円 |
営業利益 | 152,600円 |
年間想定利益 | 1,831,200円 |
この店舗は立地は非常に良い反面、家賃はそれなりの高さでした。
席数に対して会員数はかなり多かったので何とか黒字ではありましたが、正直、無人運営の仕組みが導入できていれば月間で20万円ほどは利益を上乗せできたので、年間で180万円程度の利益だったものが、420万円の利益ぐらいまでは改善できていたと思います。
コワーキングスペースB店
- エリア:静岡県
- 立地 :駅徒歩10分
- 面積 :約120坪
月額会員費 | 2,334,000円 |
その他売上高 | 328,000円 |
合計売上高 | 2,662,000円 |
家賃・水道光熱費 | 1,350,000円 |
人件費 | 575,000円 |
その他経費 | 231,000円 |
合計経費 | 2,256,000円 |
営業利益 | 506,000円 |
年間想定利益 | 6,072,000円 |
ここは中規模の都市でクリエイティブな職種はかなり少ないと言われているような街でしたが、実際に運営した際には予想以上に様々な職種の利用者が集まってくれました。駅からも決して近いと言えない立地だったとしても、明確な価値を作ることで十分に会員を集めることができるというのが実証できた店舗でもあります。運営途中で価格帯の値上げや人員削減をしたうえでこの収益値になりましたが、しばらくは収支ギリギリの中での運営でした。
本記事で公開している店舗はどちらも黒字での運営ですが、もちろん運営した店舗では赤字のままだった店舗もあります。また、黒字化前に施設自体が閉鎖してしまうような場合もありました。
結局は、コワーキングスペースの運営はケースバイケースです。立地や店舗のクオリティ、経営戦略、マーケティング、オーナーの努力など、様々な要素によって大きく収益は変動します。様々な諸条件から総合的に判断して、店舗の運営について判断していきましょう。
コワーキングスペース開設のための初期コスト
さて、前項で収益数字についてお話しましたが、「そもそもコワーキングスペースの開業っていくらかかるのか?」という部分もとっても大事なことですね。毎月10万円しか利益が出ていなくても、初期コストが200万円程度だったら、2年かからずに回収できてしまいます。一方で、毎月100万円の利益が出ていても、初期コストが1億円かかっていたら、回収に8年以上もかかってしまいます。
もちろん、銀行の融資などを使えば良いのでそう単純な話ではないですが、商売の基本はなるべく、初期コストは抑えながらも、利益は最大化することです。コワーキングスペースを運営するうえで、実際どの程度のコストが必要なのか、どのようなケースではどの程度の費用を見込んでおくべきなのか、知っておくことはかなり参考にしていただきやすいと思いますので、実際の出店に関わる初期コスト(イニシャルコスト)について公開いたします。
面積 | 契約時の店舗の状況/初期コスト | |
店舗A | 30坪 | 同業態からの居抜き |
初期コスト:約900万円 | ||
店舗B | 120坪 | スケルトン |
初期コスト:約5000万円 | ||
店舗C | 500坪 | 同業態からの運営の引き継ぎ |
初期コスト:約500万円 | ||
店舗D | 150坪 | スケルトン(空調のみ設置済み) |
初期コスト:1600万円 | ||
店舗E | 60坪 | オフィス仕様 |
初期コスト:400万円 |
コワーキングスペースを開業する際に必要な主な経費は「家賃・保証金」「内装工事費用」「什器・設備費用」です。
物件ごとに全く違いますが、具体例でも分かるように、スケルトン(基本となる0ベースの状態)の場合は工事費はかなり高額になりやすいです。コワーキングスペースは面積に対しての売上高がけっして高い業態ではないため、あまりコストをかけて開業するよりも、できるだけ居抜きの店舗などを狙ってコストを抑える方が圧倒的に効率が良いです。
また、オフィスビルなどは元々が一般的なオフィス仕様になっている場合も多く、その場合はコワーキングスペースとしての利用であれば、ほとんど工事をすることなく、開業することも可能です。
個人的にはオフィス仕様の物件に、間仕切りなどはオフィスパーテーションなどで取り外しや移動ができる什器を使ってレイアウトして、造作工事などできるだけしないままで仕上げてしまうことがおすすめです。仮に店舗が順調に運営できている場合には店舗の増設や移設なども検討できますし、逆に思ったよりも売上が上がらない場合に店舗の縮小や撤退もリスク少なく対応できるからです。
コワーキングスペースの運営に適したエリア
2021年現在、全国で約1200店舗のコワーキングスペースが運営されています。
正直、運営の方法次第では47都道府県のどこでもチャンスはあると思いますが、収益を出しやすいエリア、そうでないエリアもあります。
そこで、各地で実際に運営してきた経験と、店舗運営のサポートをし続けて得たデータから事業として成立させやすいエリアとそうでないエリアについての評価をしてみたいと思います。
※あくまでも個人的な見解です。
エリア | 運営のしやすさ | 評価についての解説 |
東京都 | 非常に難しい | 競合店舗の多く価格競争になりやすく、顧客獲得単価も高い。一方で家賃水準も人件費も高いため、安定的な利益を出すのが非常に難しい。単独での運営ではなく、本業と+αの事業として相乗効果を見込める運営方法や、アンテナショップとしての活用が望ましい。アドレス自体に価値が高いため、小スペースでバーチャルオフィス運営という手段もあるがすでに価格破壊が起きており、全国で最も単価が安い。 |
大阪府 | 難しい | 東京都比較すれば競合店舗の数はまだ少ない。しかし、近年急激に店舗数が増加しているため、比較的早い時期には東京都と同じく運営の難易度は上がっていくと思われる。家賃が相場よりも安く交渉できた場合や、自社物件などであれば運営はかなり楽になる可能性がある。顧客からの需要自体は高いエリア。 |
100万人都市 | 普通 | 100万に規模の人口がある大都市の中でも、コワーキングスペースの進出がまだ少ないエリアもあり、そのような場合はチャンスと言える。しかし、大都市ほど大手企業の進出などの可能性も高いため、将来的には多数の店舗との競合となることを見越しての運営が必要となる。大都市では県外からの出張者などの利用も見込めるため、駅近くの好立地を確保するのが戦略としてはベター。 |
50万人都市 | 容易 | 全国に30〜50万人規模の中規模都市は多数あるが、人口に対して店舗の整備が進んでいない場合が多いため競合が少ない。とはいえ、需要が無いかといえばそうではなく、一定数の利用者は十分に見込める。空き不動産も多い場合が多く条件の交渉がしやすい場合も多い。既存店舗が小規模店舗の場合がほとんどなので、差別化や明確なノウハウがあれば収益化はそれほど難しくないエリア。 |
10万人都市 | 難しい | 10万人ほどの人口の規模になってくると需要の獲得が難しくなってくる場合が多い。特に街自体の高齢化が進んでしまっている場合はコワーキングスペースの利用者自体がかなり限定的になってしまう。ただし、近隣に大都市がある場合などで、大都市のベットタウンとして機能している街の場合は一定数の需要を獲得できる可能性がある。交通網の状況や近隣都市の状況によってはむしろチャンスとなる場合もある。 |
3万人都市 | 非常に難しい | 利用者の需要自体がかなり限定的になってしまっているので運営自体が難しいと言わざるを得ない。この規模になってくると周辺都市との連携も難しい場合が多いため、地元密着での需要獲得がポイントとなる。そもそもコワーキングスペースが存在していない町も多いため、認知を広げるのに時間がかかる場合もある。単独での運営よりは、近隣の町にあるコワーキングスペースを先に出店したあとに、連携できる店舗としての出店するなどの工夫が必要になる。 |
本項では、大枠ではありますが都市の規模別でのコワーキングスペースの出店についての評価をまとめました。本来はもう少し細かく、市町村ごとでの記載の方がより分かりやすいですが、非常に対照となる街が多いため、大枠でまとめさせていただきました。
あくまでも目安程度なので、実際に進出される際は、より詳細の調査をすることをオススメします。
仮に50万都市でも非常に難しい街もあれば、10万都市でもチャンスが大きな町もあります。また、不動産の賃料が格安で使えるという場合や、そもそも自社保有物件などの状況ではまた運営の難易度も変わってきます。ケースバイケースで判断していきましょう。
未経験事業者の勘違い
コワーキングスペースはここ数年で新たにチャレンジをする方々が非常に増えました。
しかし、新しい業界というだけあって、情報が少なく勘違いが起こってしまうことも多いです。
そこで、様々な事業者の方々のサポートをする中でよくある勘違いをまとめました。新規で店舗の仕組みを作られる際の参考にしてください。
1.会員数のキャパシティについての考え方
コワーキングスペースを運営するうえで重要となる利用者(会員)の許容人数ですが、おおよそ、設置している席数の100%〜150%程度で運営を計算される人が多いです。例えば、100席の店舗であれば、100人から150人ぐらいの会員は許容できるだろうということです。顧客単価が1万円であれば、この会員売上は単純計算で100万〜150万円、単価が2万円であれば、200〜300万円ということになります。
これは必ずしも間違っているとは言えない数字ではありますが、実は店舗の運営の仕方によっては席数に対して会員が500%や700%、私が知っている限りで最も多い場所は1000%という水準まで会員を獲得できている店舗もあります。実際には1000%までいけることは稀ですが、席数が100席に対して会員数が1000人ということですから、とても優秀な数字であることは分かると思います。
2.有人運営についての考え方
コワーキングスペース運営において非常に多くの経費がかかる項目の一つは「人件費」です。
しかし、以外にもこの人件費を有効に活用できていない店舗も多数あるのも事実です。例えば、運営している時間中は常に人を配置して受付などをしているなどです。これはサービスによるので一概には言えないですが、人を配置することに価値を見いだせているサービスの場合は全く問題ありません。例えば、専用のコンシェルジュサービス、ビジネスサポート、顧客対応の代行や電話代行、事務作業の代行などですね。サービスによっては実際に対面でしか成立しないものもありますので、このような場合は有人での運営をうまく活用していると言っていいでしょう。
しかし、問題なのは「受付・清掃」が主な業務となっている運営の場合です。正直、無人で運営しても売上はほぼ変わらないということが多いです。セキュリティ面が心配という事業者もいますが、それは施設の運営の仕組みや設備の問題であって、人から低コストで代替えできる方法はいくらでもあります。たくさんの不特定多数の人が出入りするコンビニエンスストアですら無人運営できる時代で、管理のしやすいオフィス運営でそれができないわけはないのです。人を介してのサービスで売上を作ることや、差別化するという場合以外では、基本は無駄な人件費はかけない運営というのが効率的な戦略の一つです。
3.コストを掛けた店舗の方が売上が上がる
これもよくある勘違いの一つですね。正直、全く関係ないとは言えませんが、工夫次第です。膨大なコストをかけてキレイな店舗を作り上げても全く売上が伸びていないようなところもあれば、大して工事費や什器などには費用をかけていないけどしっかりと集客できているという店舗もあります。今はオフィスの在り方というものは数年前と大きく変わりました。普通のオフィス仕様で床はタイルカーペーットやOAフロア、壁紙は普通の白色で天井には蛍光灯やLED照明、のような普通のオフィスよりも、床はコンクリート打ちっぱなしの無機質なもので、天井も構造材がそのまま見えていて照明はスポットライトなどが付いている、というようなデザインが好まれる場合も多々あります。どちらも好みはありますが、後者のほうが工事のコストは前者の数分の1で収まりなおかつ差別化しやすい、しかも顧客単価を大差ないとなれば、少なくとも私なら後者を選びます。
4.大都市の方が運営しやすい
これは大きな勘違いです。少なくとも今の日本において最も苦戦している店舗が多いのは「東京都」であることは間違いありません。しかし、残念なことに1〜2年の間に数百の店舗が廃業してしまう可能性もあると思っています。
これは前述した「コワーキングスペース運営に適したエリア」で内容はまとめていますので改めてご覧ください。
少なくとも、競合が非常に多く、大資本が自社物件を活用するために採算度外視で運営している店舗も多く、日本でも最も店舗数が多いエリアであるということを認識してもらえれば難易度の高さは想像できるのではないかと思います。
価格競争になれば、単価は下がり、一方で広告宣伝費などの顧客獲得単価は上がります。
家賃も人件費も高いので、毎月高水準のランニングコストにも悩まれていることも多いでしょう。
まとめ
さて、ここまで様々な観点からコワーキングスペース・シェアオフィスの運営についてのお話をさせていただきました。経験者であれば、当然という内容も多かったかもしれませんが、これから新しくスタートされる方は意外とイメージと現実のズレもあったかもしれません。
コワーキングスペースの業界はこれからの新しい働き方を実現するのに不可欠なものですので、今後も業界は大きくなっていくでしょう。しかし、正しい知識を持っているかどうかで運営の結果は大きく差が出るものだと思います。
極論いえば、どんなエリアであろうと勝ち方は存在します。そして、事業者のスタンスによってどのような勝ち方がベストなのかもケースバイケースです。まずはご自身が求めていることをこのコワーキングスペースの運営というものを活用してどう実現できるかということです。少しでも私のこの記事が新たにスタートを切られようとしている事業者の方々のお役に立てるなら嬉しい限りです。